たしかに、よしたに。

あんな人やこんな人について、考えたことを書きます。すこしでも「たしかに」となりますように。

ダン・カーターという人について。

日本のすべての「スタンドオフ」というポジションを選んでいるラグビーキッズたちは、「こ、‥‥これがスタンドオフ‥‥」と、驚きとともに、よろこびとともに、悲しみも感じていたにちがいない。

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世界中の誰もが認めるワールドクラスNo.1スタンドオフ、「DC」ことダン・カーターの日本での初めてのプレーをナマで観て、「なぜ彼がこれほどいいプレーヤーと言えるのか?」を自分なりに考えたのです。

とくに、中高生のみなさんが「これができるようになれば、いいスタンドオフと言えるのかもしれない!」と、日々の練習で意識できるようなことを書きたいと思います。 

名付けて、「DCに学ぶ スタンドオフ7つの流儀」です。

 

①「タックル成功率→100%(たぶん)」

DC自身が「まずは尊敬、信頼されるプレーヤーでなければなりません」とあちこちで話しているとおり、チームメイトから信頼される選手でなければ、スタンドオフというチームの司令塔のポジションは任せてもらえないのだと思います。そのDCは、開幕から2試合観ていて、すべてのタックルできちんと相手を倒して、ボールをつながせていません。直前にスッと低くなり膝の位置にズバッと入るタックル、デカイ相手が正面からきたときは相手の勢いを利用して引き倒すタックル、とうまく使い分けています。

なんなら彼は、ブレイクダウンで相手にプレッシャーをかけているシーンもよく見られます。冷静な頭でゲームをコントロールしなければならないポジションですが、カラダを張ることを決して厭わず、ハードワークしているんですよね。ニュージーランド代表「オールブラックス」のヘッドコーチ、スティーブ・ハンセンも、「ダン・カーターはこれまでのスタンドオフの在り方を変えた。とくに、ディフェンスの面において」とどこかで話していました。

サントリー戦で、ラスト5分でサントリー・梶村にトライを取られそうになったときに、チームの最後尾まで戻って追いかけてタックルをしたシーン。あの瞬間、すべてのチームメイトが「コイツの言うことならなんでも聞こう」と思ったはずです。


②「キックの速さ・低さ・精度」

DCのエリア獲得のキックは、すべてダイレクトキャッチ(いわゆるノーバン)させていません。フィールドの中央の奥のほうに思いきり蹴ったときはダイレクトキャッチさせていましたが、コーナーに蹴るキックはすべてワンバウンド以上させています。

ボールがワンバウンドしているあいだに、敵は平均5-10mDFラインを上げられるので、「ダイレクトキャッチさせないこと」はとても大事です。このキックを蹴るためにはまず、弾道が「低く」なければなりません。つまり、同じ到達地点にボールが落ちるときに、滞空時間が短ければ短いほど、相手はダイレクトキャッチするのがむずかしくなります。

ひとむかし前は、「スクリューキック」と言ってボールに回転をかけるキックが主流でした。たしかに飛距離は出るのですが、弾道が高くなること、コントロールが効きにくいことから、今ではDCのようなストレートキックが主流ですね。

彼のキックは、いわゆる足の軌道が「J」ではなく「C」のタイプですが、カラダを強くひねるパワーが尋常ではないです。軌道を低くするために、カラダの上体をかなり前傾させています。そうとう体幹を鍛えているんじゃないでしょうか。

また、キックの精確さという点では、ペナルティー・脱出キックともにタッチキックは、すべて約40m以上ゲインしていました。トヨタ戦で自陣22m内から右に出したキックが敵陣10mに出たとき、タッチジャッジに「もっと奥でしょ」とアピールしてたので、それくらい何度も練習をしてきていて、どこの位置から蹴ったら、どこまで飛距離が出るのかということを、じぶんで理解しているのだと思います。


③「トイメンが一列なら勝負する」

これは、たまたまもしれません。が、彼がフェーズ中にじぶんで仕掛けた(パスせずボールを持ってランした)ときは、すべて「トイメンが一列」でした(プロップかフッカー)。これは、そうですね、常にじぶんの目の前はモチロン、首をふりつづけて周囲をウォッチしているということだと思います。

あと、これは神戸製鋼のチームメイトである山中亮平に教えてもらったことなのですが、「試合中、プレッシャーや余裕がなくなってきて視野が狭くなってしまうとき、DCはピッチの左右のライトをみて視野を大きく広げるんだって」とのこと。なるほど、日常生活でもパソコンやスマホばっかり見ていたらダメだなぁ‥‥。


④「キャッチ・パスのミス回数、ゼロ」

あたりまえなようで、あたりまえじゃないのが、このハンドリングの基礎の徹底だと思います。サントリー戦では雨も降っていましたが、一度もハンドリングエラーはありませんでした。おそらく、キャッチやパスをするスキルが高いのはもちろんですが、ミスをしないために「パスをもらう相手」や「パスをする相手」とのコミュニケーションがきちんとされているのだと思います。意思疎通ができているから、ミスも減る。そして、こういう小さなところでミスしないからこそ、「チームから信頼されるプレーヤー」になっているのだと思います。


⑤「ゲームマネジメント」

以前、ぼくの中で「ゲームメイクといえばこの人」ということで、サントリー小野晃征さんに、「ゲームマネジメントはどう考えているのか」と話を聞いたことがあった。そのとき話してくれたことは、だいたい以下のようなことだった。

 

~ゲームプランについての基本的な考え方~

1.相手のやりたいことを1つずつつぶす(一度に全部はできない)

2.相手の弱みをどう生かすか

(例)vs.南アフリア

1.セットプレーが強みの相手。スクラム減らす、セットピースを減らすためにボールインプレーを減らす、フリーキックはクイックで行く。
2.プレーが高いから低さで勝負する

~テンポについての基本的な考え方~

ラグビーはプレッシャーのやりとりである。

<プレッシャーとは?>

天候影響、レフリー、タイムプレッシャー、エリアプレッシャー、点差プレッシャー、セットピースプレッシャー。

<プレッシャーを与えているのか。受けているのかを考える>

与えているときは、テンポを上げる。どんどんチャレンジする。相手のイヤなところをやる。

受けているときは、テンポを落とす。確実なプレーに変える。一歩深くする。早めにパスする。選手に休ませる時間をとる。

<プレッシャーのやりとりをどう見るか?>

選手ひとりひとりが持っているスキルセットのなかからプレーしているか。考えてしまっていないか。(やりたいこと、できることの枠のなかでのプレーをしているか)その選手がやらないプレーをはじめたら、それは「考えはじめてしまっている」証拠。それは、プレッシャーを受けている証拠。

 

‥‥と、こんな内容でした。つまり、スタンドオフ、ゲームメーカーは、常に周りを観察して、自チームのこと敵チームのことを理解しなければならない。そして、そのピッチ上の状況を「判断」して「伝達」して、「実行」しなければならない。そうとうな労力であると思う。

たとえば、サントリー戦のDCのキックオフの蹴る位置は、「同じところに蹴るのを2回続けてやらない」ようにしていた。敵ボールのキックオフキャッチ後のオプションも、ロングキック、ハイパント、大外への展開、攻めてからタッチキック‥‥など、常に相手の陣形を見て、どこにスペースがあるのかでオプションを変えていた。もちろん、DCだけではなく、周りのプレーヤーたちからの情報伝達があってこそ、だと思います。


⑥「コミュニケーションの力」

これは実際に試合を観てDCを観察していたら、すぐに分かることです。常に周りを見たわして、常に誰かと会話をしています。それはオフェンスのときだけではなく、ディフェンスのときも。じぶんが今、だれをノミネート(マーク)しているのかをとなりのプレーヤーに「伝える」、となりのプレーヤーがどの相手をノミネートしているのかを「聴く」、こういった、ラグビーという「となりの仲間と距離が近くて、常に目の前に同じ光景のないスポーツ」だからこそ、いい判断をするためにコミュニケーション力(聴く力、伝える力)があるかどうかは、とても大切なのだと思います。


⑦「謙虚さを忘れない人間性

これは、直接会ってしゃべったことはないので、なんとも言えませんが、このJスポーツのインタビューを見れば、いかに彼がすばらしい人格を持っているか、わかるのではないでしょうか。

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すばらしい成績を残したアスリートでも、次の年、さらにその次の年まで活躍しつづけることは、なかなかむずかしいことだと思います。

 

それは、メディアに注目されたり、政治家が寄ってきたり、お金に目がくらんでしまったり‥‥いろいろな外的要因を受けて、さいごはじぶん自身に負けてしまうアスリートは多いのではないでしょうか。その点、DCのこのインタビューを見て、「あぁ、すばらしい仲間や家族、そして謙虚さをもってるんだなぁ」と思いました。

以前、RIZAPグループの創業者である瀬戸健さんに初めてお会いしたとき、あまりに腰が低く、誰にも笑顔でフラットに接する方なので、正直に、「どうしてそんなに謙虚なんですか‥‥?」と訊いたら、「ホンネを言えば、欲があるからだと思います(笑)。まだまだ上を見て成長したい。そのためには、人から学ばなきゃいけません。人から学ぶためには謙虚でなきゃいけまけん」と話していました。つまり、現状に常に満足することなく、「もっと高みへ」という姿勢が、人を謙虚にするのだということでした。

 

世界一のスタンドオフ・DCは、「さらに世界一のスタンダードを上げたい」と、いつもじぶん自身と闘っているのかもしれませんね。

‥‥あぁ、カッコいい~!

 

 

(たしかに、よしたに